『唇を合わせるまで』













「つまんないですー」

ベッドの上にうつ伏せに寝転んだ骸が、不満一杯に唇を尖らせる。
綱吉の部屋に押しかけて来た、自称お稲荷様の骸の定位置は、相変らず綱吉のベッドの上だった。
無視を決め込んでノートに向かう綱吉に、骸の頬が膨れる。
美しい金色の耳は伏せられ、同じ色の尻尾を手持無沙汰に揺れた。
ぱた、ぱた、と骸の尻尾がベッドを叩く。

「何ですか、ダメツナのくせに宿題なんかしちゃって」
「くせにってなんだよ!?オレだって宿題くらいするよ!!」
「何も今日じゃなくてもいいじゃないですか」

ぶすくれる骸に、シャーペンを持ったまま綱吉が首を傾げた。

「なんで?今日なんかあるの?」
「いいえ、別に。ただ、今日は物凄く構ってもらいたい気分なんです」
「お前の都合かよ!!じゃあもうちょっと大人しくしてろ!!」
「綱吉君酷いです!恋人がこんなに暇を持て余しているというのに!!」
「誰と誰が恋人なんだよ!?」

持っているシャーペンを折りそうな勢いで綱吉が声を荒げる。
それに楽しそうに笑って、骸はベッドを降りた。
座布団に胡坐をかいている綱吉の元まで近付くと、綱吉に体を擦り寄せる。

「愚問ですね。僕と君に決まってるじゃないですか」
「く、くっつくなって言ってるだろ!!」
「クフフ…照れなくてもいいんですよ、綱吉君」
「離れろ!宿題出来ないだろ!!」
「宿題なんてどうでもいいじゃないですか。どうせやってもやらなくても同じでしょう?…ほら、このページの答え、全部間違ってますよ」

クフフ、と骸が笑うと、綱吉の顔がカッと赤くなった。

「う、うるさいな!いいんだよ別に!やっていかない方が怒られるの!」
「怒られたら僕が罰を当ててあげますよ」
「だからダメだって言ってるだろ!あんまりしつこいと嫌いになるぞ!」

綱吉の言葉に、骸の柔らかい耳がシュンと元気を無くす。
金の耳をペッタリと頭に張り付かせて、骸は愚図るように鼻を鳴らした。

「綱吉君ズルいです。そう言えば、僕が何も出来なくなること知っていて…」
「骸がしつこいのが悪いんだろ」

ツンとそっぽを向く綱吉に悲しそうな視線を向けて、骸は綱吉の髪に顔を埋める。
フカフカの茶色い髪に愛おしげに頬ずりして、もごもごと不満を零した。

「大体、綱吉君が最近僕に冷たいのが悪いんですよ」
「オレのせいかよ」
「そうです。前は宿題なんて全然やってなかったのに、最近は真面目ぶって毎日やってますし、夜は一緒のお布団で寝てくれたのに、今は別々ですし…」

殊勝な様子でしな垂れ掛かる骸に、綱吉が半眼を向ける。

「そんなこと言って、夜は勝手にオレのベッド入ってくるじゃんか」
「当然です!!犬じゃないんですから、あんな寝床じゃ寝られません!!」

ビシッと骸が指差す先には、オレンジ色のクッションが無造作に置かれていた。
興奮する骸に、綱吉は冷めた視線を返す。

「犬とほとんど同じだろ」
「違いますよ!!見なさい!この見事な尻尾を!!気品溢れる耳を!!」

立ち上がった骸が、ばさりと金の尻尾を振り、同じ色の耳をピンと立たせた。
凛としたその様は神様と形容するに相応しかったが、綱吉の態度は変わらない。
面倒臭そうに溜息を吐いて、骸から視線を外した。

「はいはい、じゃあ今夜はお客さん用の布団借りてくるから」

うんざりした様子で言う綱吉に、骸の尻尾と耳から元気が無くなる。
再び綱吉の体にしな垂れ掛かると、悲痛な声を上げた。

「違います!そういうことじゃないんです綱吉君!!」
「なんだよ、うるさいな」
「前みたいに一緒に寝たいんです!!眠った君のベッドに忍び込むんじゃなくて、前みたいにまどろみの中でイチャイチャしたいんです!!」
「なっ!?ば…!そ、そういうのがイヤなんだよ!!」

頬を赤くして言い切る綱吉に、骸の表情が一層悲愴に歪む。

「な、何故ですか綱吉君!?僕のこと嫌いになっちゃったんですか!?」
「べ、別にそうじゃないけど…!!」

咄嗟に言い返してから、綱吉がハッとした。
骸の頬が、あからさまに緩んでいる。
綱吉はばつが悪そうに骸から顔を背けると、赤い頬のまま小さく口を開いた。

「……その、お前と一緒だと、全然寝れないから…」
「そうですか?毎晩朝まで君の様子を見てますけど、ぐーぐー寝てますよ」
「こ、怖いからそういうのやめろって言ってるだろ!?」

赤い顔を青くさせて、綱吉が骸から距離を取ろうと後退る。
骸はその距離を笑顔で詰めると、綱吉の肩を逃げられないようにガッシリと掴んだ。
目の前まで近付いた骸の顔に、綱吉の頬がまた赤くなる。

「綱吉君、本当の理由を教えてください」
「っ!」

赤と青の瞳に真摯に見詰められて、綱吉が息を詰まらせた。
頬の赤味が増し、飴色の瞳が潤む。

「ほ、本当も何も、ホントに寝れないから…!」

はあ、と綱吉が酸欠のように息を吐き出した。
骸の視線から逃れるように、視線が下がる。

「お前、ただでさえ距離が近過ぎるのに、一緒の布団でなんて寝れないって…!」

控えめに、綱吉の視線が持ち上がった。
赤い頬を更に赤らめて、困ったように眉を寄せる。

「骸といるとドキドキして心臓が壊れそうで……頼むから、これ以上、ドキドキさせないでよ…」

弱りきったような声で、綱吉が懇願するように言った。
その瞬間、綱吉の視界がグンと傾く。

「わっ!?」

綱吉が状況を理解した時には、骸の背後に天井が見えた。
骸にマウントポジションを取られていることは理解出来たが、その理由までは分からない。
不安げに、綱吉が骸へ手を伸ばした。

「むくろ…?」
「綱吉君」

その手を握って、骸はやんわりと床へ縫い止める。
もう片方の手もそうされて、綱吉の不安が更に大きくなった。

「な、なにっ…」
「怖がらないで…大丈夫ですから」
「ひっ!」

ちゅ、と優しく目元を吸われて、綱吉の体が大きく跳ねる。
骸は宥めるように、額や頬へもキスを落とした。
その度に、綱吉の体が小さく震える。
何度目かのキスを頬へ贈って、骸は綱吉の瞳を覗き込んだ。

「好きですよ、綱吉君。愛しています」
「な……んぅ!?」

何か言い返そうと口を開いた綱吉の唇を、骸が自分の唇で塞ぐ。
驚きで閉じることを忘れてしまった綱吉の口へ、骸は素早く舌を侵入させた。
柔らかく小さな綱吉の舌へそれを絡ませると、そっと吸い上げる。

「んんっ!…ぅ……ふっ…!」

そのまま蹂躙するように舌を絡められて、綱吉が苦しげに眉を寄せた。
ぎゅう、と閉じた目尻に、薄っすらと涙が滲む。
口蓋をなぞって舌の根を擽ると、鼻に掛かった声が綱吉から洩れた。
始めは抵抗しようと力の入っていた綱吉の腕が、次第に弱々しくなる。

「…ん、ん…」

混ざり合った唾液を飲み込んで、綱吉が恥ずかしそうに眉を下げた。
骸の舌に自分のものが触れる度に、腰に電気が走るような感覚がする。
段々と鈍くなっていく思考の代わりに、その感覚が際立っていくような気がした。
殆ど無意識に、綱吉の舌が骸の舌に擦り寄るように動く。
骸が喜んでそれを絡み取ると、綱吉から甘えるような声が上がった。

「ふぅ…んっ…!」

綱吉の舌が拙く骸の舌を追って、くちゅりと唾液の混ざる音が響く。
もっとと言うように伸びる綱吉の舌を優しく吸って、骸は唇を離した。
唾液に濡れた唇から、小さな赤い舌が覗く。

「はあ…あ……」

吐息と一緒に、綱吉の口から物足りなさそうな声が零れた。
ゆっくりと瞼が持ち上がると、蕩けた飴色の瞳が覗く。
涙の付いた睫毛が、重そうに瞬いた。

「む、くろ…」

上がった息を整えながら、綱吉が切なげに骸を呼ぶ。
その頬を撫でて、骸はもう1度綱吉の唇に軽くキスをした。

「可愛い…僕の、綱吉君…」
「ふあっ!」

パーカーの上からそっと腰を撫でられて、綱吉が体を跳ねさせる。
そのまま骸はパーカーの裾から手を差し入れ、直に綱吉の肌を撫でた。
熱く吸い付くような肌に、骸が喉を鳴らす。

「あっ…や、ぁ…」

小さく首を振る綱吉に宥めるようにキスをして、骸は綱吉の胸に手を這わせた。
骸の指先が胸の突起に触れた瞬間、綱吉の体が大きく跳ねる。

「ひあっ!?あっ!や、やだ…あ!」

指で捏ねるように撫でられて、綱吉の体が震えた。
自由になった手で、骸の服を掴む。

「あっ!ん…ひあ…あっ、む、むくろぉ…!」

甘く声を上げながら、綱吉が縋るように骸を見上げた。
まるで煽っているような綱吉の様子に、骸の尻尾が満足げに揺れる。
肩口へ顔を埋め細い首へ舌を這わせると、綱吉の声が一層高くなった。

「ひんっ…!あっ、あ!!」

肌を強く吸われて、綱吉がビクリと震える。
骸の服を掴む手に力が籠った。
きつく閉じた瞳から、ぼろりと涙が零れる。

「や、やだぁ…・あっ!やだ…あ…」

胸を捏ねられながら、綱吉が力無く拒絶を示した。
綱吉の涙声を聞いて、骸がハッと顔を上げる。

「す、すみません!!」

青褪めた骸が、慌てて綱吉の体の上から飛び退いた。
乱れた綱吉の衣服を素早く直して、ぽろぽろと零れる涙を指で拭う。

「も、もうしませんから、泣かないでください…!」

大きな耳をこれ以上ないほど伏せて、骸は綱吉の涙を拭い続けた。
ぐずぐずと鼻を啜った綱吉が、その手をパシッと払う。

「つ、綱吉君…」

骸の顔が青を通り越して白くなった。
そんな骸を尻目に、綱吉は目元を擦りながらゆっくりと体を起こす。
骸がティッシュを差し出すと、無言でそれを受け取った。

「あ、あの、土下座でも何でもするので、どうか嫌いになるのだけは…!!」
「…………別に、嫌いにはなんないけど…」
「えっ!?」

ぼそりと言う綱吉に、パアッと骸の表情が輝く。
それを綱吉がジトッと睨み付けた。

「今度やったら追い出すからな」
「わ、分かってます!!」

がくがくと首を振って、骸が頷く。
それに些かスッキリしたような顔をして、綱吉は大きく息を吐いた。
1年分の鼓動を打ったような気がする。
初めてキスをされたから、余計に心臓に負担が掛かったように綱吉は思う。
また急にキスをされたりしたら、今度こそ心臓が止まってしまう。
けれど骸とのキスは、それほど悪くないように思えた。
思考が蕩けて、真っ白になるのが心地良い。
そこまで考えて、綱吉は頬を赤らめた。
きゅ、と両の手を握る。

「……ちゃんと言えば…キ、キス、くらいなら…してもいい、けど…?」

言いながら、綱吉が首まで赤くなった。
恥ずかしそうに俯いてもじもじとする綱吉に、骸は気が遠くなる。

「つまり、綱吉君は僕に出て行ってほしいってことですね」
「な、なんでそうなるんだよ!?」

赤い顔のまま驚く綱吉に、骸は精神が摩耗するのをひしひしと感じた。
キスはしたいが、キスだけで留まれる自信など全く無い。
けれど、それを鈍い綱吉に分かってもらうことは無理そうだった。

「まあ、君のお願いは叶えたいので、僕が頑張るしかないですよね」
「なに?」
「いえいえ、独り言です」

首を傾げる綱吉に微笑んで、骸は柔らかい茶色の髪を撫でる。
そうされて擽ったそうに笑う綱吉に骸は、キスより先のことはまだまだ先だな、と改めて思った。

































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「アンスリウムを君に」の
まるたさんから相互リンク記念にいただきました!!ムクツナ小説です(興奮)
ああぁあああぁありがとうございます!!!!!!
LOVEまるたさんのサイトにある お稲荷さん骸×ツナたんのお話が大好きで
ぜ、ぜひ続きを・・!とリクエストしちゃいました☆
狐な骸さんいいですよねvvvエロス&変態で性格も黒くてたまりません(*^ω^*)
ツナたん苛めたら骸がこっそりと仕返しにいきますからね怖いですよ☆

厚かましくもエロスなシーンを入れてもらいました!!ありがとうございます〜///
最初から骸さん黒いですね(笑)そしてデレデレ♪
骸さんにツナたんが襲われてる!!!!(大興奮)
そしてツナたん恥ずかしがり屋&乙女で可愛いですー☆
ちゃんと順序通りに進めていかないとダメなタイプですね
なんて奥ゆかしい!!初々しいよツナたんvv骸は今すぐにでもOKだから頑張ってねツナたん!!!
骸の・・・は・・・はつじょうきには気を付けてね毎日大変vv(わくわく)

素敵な作品どうもありがとうございました♪
                             2013・12・01





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